ふたりエスケープ(2) (百合姫コミックス) [ 田口 囁一 ]
現実を放り投げて馬鹿をする
田口囁一先生の『ふたりエスケープ』2巻の感想を書いていきます。(※多少のネタバレを含みます)2巻も前巻同様に全力で現実からエスケープします。年齢的には社会人百合のはずですが、良い意味で(?)社会人感が全くありません。社会から逃れている証拠です。現実逃避ガチ勢のふたりは完全にふたりだけの世界を作るのが上手いようです。1巻は8話まで収録されていました。2巻は9話~16話+おまけ。さっそく9話から感想を書きます。
その9 サマータイム・エスケープ
作中の関東は猛暑日。窓を開けて馬鹿野郎と叫ぶ気持ちもわかります。先輩は「馬鹿はお前だ」と頭を叩きますが、その理由は「冷気が逃げるから」。近所迷惑になるからとかではないところが「ふたり」感あります。
後輩の漫画の作中は冬らしい。外は35度以上なのに。そこで先輩の提案により、カーテンを閉めエアコンをガンガンにしたうえで冬らしいことをどんどんしていきます。夏とかいう馬鹿な現実は消えました。電気代も気にしてはいけません。冬なので暖は喜びです。
後輩の冬らしい秘蔵っ子を使った鍋を楽しむふたり。ここで先輩に夏がはみ出ている発言がみられましたが、たぶんなんかのことわざです。たとえはたとえ。
夏に優勝する手段として非常に優れていますが、熱中症には気を付けましょう。
その10 夏の終りのエスケープ
夏っぽい出だしと夏っぽい扉絵。オタクが大好きな架空の夏。はい、好きです。百合という花は6月~8月にかけて花を咲かせるらしいので、百合と夏の相性は良いです。今年の夏もたくさんの百合の花が咲くといいですね。もちろん春秋冬も咲いていたら喜びます。
話を戻します。ふたりで海をみながら夏っぽい思い出について語ります。後輩の夏の原風景はフィクション由来とのこと。フィクションの夏はエモいですよね。先輩もなんとなくそれを感じたようです。
思い出を語ったあとに後輩が一言。
「リアルな夏も 案外尊いですね」
尊いのはおふたりだからです。筆者のリアルな夏は尊くありません。
最後は花火をして帰ります。花火がどんな色をしていたか忘れかけていますが、ふたりの花火はきれいでした。
その11 ミッドナイト・エスケープ
原稿作業の合間に3・4時間の暇ができてしまった後輩は、24時間暇な先輩にリフレッシュの助言を求めます。
最初は適当に相手をしていた先輩ですが、やっぱり可愛い後輩の頼みは断れないようです。車を出して1時間。天才が作ったアクアラインを通って24時間営業の弁当屋さんに着きます。
後輩は先輩と同じチャー弁を注文しました。茶色い弁当に満足したご様子。暇つぶしのプロはすごいですね。
帰り道は先輩のイケメン発言が見られます。朝日に照らされた先輩の顔が頼りになるお姉さんみたいです。後輩はこの顔を見て何を思ったのでしょうか。
無事暇を持て余すことなく過ごせました。なんだかんだいって後輩のために時間を使ってくれる良い先輩です。
その12 めざましエスケープ
先輩が後輩のリフレッシュに成功したと思ったのも束の間、後輩は眠気に襲われて原稿のピンチです。結局後輩の眠気を消すために、また先輩が付き合うことになります。
いろいろな方法を試しますが、まぶたは重くなるばかり。しょうがないので先輩は最終兵器「一蓮托生目覚まし」を使うことに。後輩が寝ると先輩の頭に漫画が落ちる仕組みの目覚ましです。
体を張った先輩の愛。後輩への愛と信頼がみてとれます。しかし後輩はすぐに眠気に負けます。漫画の重みよりも愛が軽かったのでしょうか。
そんなことはないはずです。たぶんあまり接点がない人が代わりに先輩のポジションにいたら、後輩は漫画を落とさないように頑張ったと思います。落としてもいいやと思える緩い危機感も信頼の証なのではなかろうか。
目が覚めてきたふたりはあらぬ方向へ向かっていきます。悪ノリが無言で終わるのは息ぴったりじゃないとできない芸当。なんにせよ結果的に目が覚めたのでOK。
その13 エイジング・エスケープ
あるきっかけにより、童心にかえることになったふたり。服装も小学生っぽいものに着替えました。小学生の遊びをめいっぱい楽しみます。
大人になって小学生のような遊びを一緒にする相手なんてなかなかいないと思います。ふたりの関係の深さが如実に表れている場面だと思います。
小学生なので4時30分におうちにかえります。晩ごはんを待ち遠しく思うふたりは姉妹のように見えました。ふたりで食べるごはんのことを考えている時間は最高です。
その14 締め出しエスケープ
遊んで帰ってきたふたり。しかし後輩は鍵がないことに気づきます。管理会社は営業時間外、鍵屋は4万円かかる…。
ふたりの手持ちが5500円あることを確認した先輩は玄関の前で夜を明かすことを提案します。先輩が500円しか持っていないのは小学生ポイントが高い。
ドンキに行って寝床と照明、箱ワインに食料を買ってきました。ふたりで贅沢な不自由を満喫します。
この行為を実際に一人でやったとしたら、Youtubeにでも載せようと思わない限り心細くてやっていられないと思います。ふたりでいるからこそ安心して入眠したはず。
寝ている姿がかなり無防備です。空き巣が来なくて良かったですね。
その15 さよならエスケープ
後輩の回想シーン。寝起きですぐに先輩に話しかけます。いるのが当たり前になっている存在であることがわかります。
書置きによると、先輩は出かけているらしい。話し相手がいないので、一人でも楽しく原稿を終わらせるために先輩がいなくなった妄想をします。
無事に原稿に間に合った後輩。家で久しぶりのひとりだとくつろぎます。いいお酒は先輩の帰りまで待つ。美味しい酒は気の合う人と飲むのが一番ということですね。
後輩はひとりの頃の行動が思い出せない程先輩との生活に浸っているのが素晴らしい。まだ1年くらいのようですが、濃密な1年間だったと推測できます。
ひとりの時間ができてしまったからか、後輩は最終回みたく今までの先輩との行動を思い出します。ふたりとも家にいる人なので、さぞ色々あったでしょう。
アルコールも回り、後輩の妄想が暴走。先輩がいなくなったのではないかと不安に駆られます。先輩を探して走り出し、街中で泣き崩れてしまいました。
大丈夫です。先輩はちゃんといました。先輩はお金がないから出て行かないらしい。後輩から離れられない人間になってしまっていました。依存レベルの高さが感じられると刺さる。
それはそうと、いなくなって心配する人の名前を知らないなんてことはないですよね。
その16 行雲流水エスケープ
テンションが上がらない後輩に先輩はサメ映画を薦めます。すかさず後輩はサメ映画以外を要求。
そこで先輩はお告げルーレットなるものを作ります。後輩の観たいものはないようですが、選択権は剥奪されました。
結局サメ映画を観ることに。先輩の薦めはピシャリ。ベストチョイスでした。ここで先輩から金言を頂きます。
何も考えずにルーレットで行動を決めます。考えないから全てがハッピー。細かいことを気にしたら負けです。「大事なのは選んだものを正解にする姿勢」。無職を正解にした女の言葉は説得力があります。
先輩も運命に任せた結果、無職のまま後輩の家に住み着くことになったのでしょうか。筆者はベストチョイスを選ぶルーレットの神様、信じています。
その他
描き下ろしはメタい内容になっています。描き下ろしのページからそのままあとがき、スペシャルサンクス、奥付のページにとふたりが登場します。奥付にまでイラストがあるの贅沢ですね。
あとがき読みました。絶望的な締め切りに間に合って良かったと思います。布教する友達が5人いないので、感想という形になりました。
カバー裏。百合の定義について書かれていました。人間が生み出した概念なのに、定義が難しいのは不思議な気もしますが、百合に関しては定義がほぼ不可能な段階になっていると思います。百合とはなんなのか。誰もが一度は考えたと思います。言葉の定義を考えるならば、言語学の視点から攻めると何か発見があるかもしれません。どこかに言語学専攻の百合オタいらっしゃいませんか。百合論の話もいつかはしたいですね。
表紙は締め出しエスケープの場面です。「本編に人生ゲームなんてありました?」という細かい疑問は気にしたら負けです。
ちなみに冒頭の花はラークスパー。花言葉は「自由気ままな暮らし」です。個人的なふたりのイメージです。
今回はこのへんで。3巻も楽しみにしています。